中学2年生の速水有理は、父親と弟と3人で暮らしていた。やがて3人は父の友人・高宮の家に身を寄せることになるが、そこには有理と同じ歳の怜人という息子がいた。次第に親しくなり、恋に落ちる2人だったが…。怜人との突然の別れと父の失踪から5年後。大学生になった有理は弟の学と2人で慎ましやかな生活を送っていた。そんなある日、怜人と再会するが―。
主人公である有理(受け)の回想録から導入されるこの話。
ちゃんと幸せであったというその時間まで、読者をタイムスリップさせてくれます。
ヤワラカで優しく穏やかで幸せな季節。この『回想』という技法を使うことによって、今は幸せでないということを色濃くしつつ、そんな時代を過ごしたということに切なさを抱かせてる。
非常に長いスパンで互いに想いを寄せる話なので、ちょっと面喰いましたが、ここに「記憶障害(記憶喪失)」の要素が入ることで納得。
受けの有理と攻めの怜人は、それぞれの家庭にそれぞれの「事情」を持ち心に傷を負っているのですね。
有理は幼い弟とどこか頼りない父のために、先のない病にある母のためにたえず虚勢を張って生きてきた。母が病死し、もとより世間ずれしていた父はモヌケノ殻となり、有理はすべてを投げうってでも、家族のために自己犠牲を自ら強いる。あたかもそうなることが『当然』のことのように生きてきたわけです。
自分のことはすべて後回し。というよりも、考えたことがない、考えないようにしてきた。
一方の怜人も複雑な家庭で育った。幼い頃両親が離婚をし、母と一緒に住むようになるがその母が再婚をする。再婚をして子供ができる。義父に疎まれるようになり、何十年もあったことのない父と住むことになる。
すべて大人の都合によって生き方を強いられてきたのですが、そのことをすべて黙って受け入れてきた。自分が我慢すれば、自己犠牲という名のもとに我慢をすれば周囲の人間誰も傷つくことがないと考えてきた。
そんな二人の父親同士が学生時代の友人という切っ掛けで、二家族の同居が始まり有理と怜人は出会うことになるのです。
「自己犠牲によって成り立つ、己の存在価値」みたいなものが、二人の切なくも痛い共通点なのですね。まだ子供だというのに、本当に悲しいことです。
でもそんな二人だからこそ、魅かれあい、気持ちが結ばれることになる。
けれど色々と事件はおこり、二人は離ればなれになり本当に苦しい時期が訪れてしまう。
大学生になり成長した二人ですが、怜人は悲しい事故によって記憶障害になり、有理と出会い一緒に暮らした数年の記憶を忘れてしますのです。
その事故の原因を知っている有理は、そばにいたいのに一緒にいることができない。
……なんだかちょっとした韓国ドラマのような悲しい出来事のオンパレードに、またかよと思いつつも先を読まずにいられない!(笑。
口ベタな有理に対して、怜人は天然なのかタラシなのか、それとも韓流なのかわかりませんが、とにかく読んでるこちらが赤くなることをサラッと言い放つ。
「…こうやって有理にさわってると、自分がなにをするかわからなくて怖くなる」
「――早く有理が欲しい」って、あなた中学生ですからっ!! (萌。いやあ、ファンタジーだなあ……
ちょっとシリアスな展開に気を抜いていると、思わぬ口説き文句が出てくるのが曲者。
ラストのハッピーエンド上でのベッドの上では、見事な言葉攻めを発揮してるし。常に冷静な口調に、あなたいくつですか?と尋ねたくなる……
「いつもそうやってやる?それが有理のやりかた?」
「俺はすごく気持ちいいけど。有理は……?」なんですか?その落ち着き払った態度はっ!? (萌。なぜかエッチのときはキャラとは違う攻めっぷりを見せるのが、なんとも言えません。汗。
どうもいまひとつ受けの気持ちに首を捻る部分もあり、攻めの感情のわかりにくさも多々ありましたが、おもしろい作品でした。
読了後、可愛らしくも愛らしい二人の未来図が、今度こそ明るくそれでいてささやかでも普通な日々出あってほしいと自然と願ってしまうような気分になります。
まさにBLファンタジー(笑。
本を閉じたあと、ひとこと「よかったね」と思わず呟いてしまいますよ。
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