表紙、綺麗ですね。アニメのセル画のようです。というか、この表紙だけを見たら、どこぞのゲームかと見紛うかと(笑。 ありそうでしょ?こういうの。
ガッシュのフェアで付いていた初回限定付録に、まんまと飛びつきましたが、なにか?
以下ネタばれあり↓
驚くことなかれ、この物悲しいテイストには、いつものような水原作品独特な執拗で暗澹な描写はほとんどありません。吃驚。だからといって痛くないのかと言われれば、答えはNOですけど。苦笑。
長年付き合っていた恋人に一方的に別れを告げられて一年が経った。ある日飯島佳史は、元恋人の病死を彼の弟・南方修司から聞かされる。悲しみと後悔に暮れる佳史。そのあげく追い討ちをかけるように「病気だと聞かされて兄貴の元から逃げたんだろう?」と鋭く責め立てられ、憎しみの余りか陵辱されてしまう。何も知らされていなかった佳史は修司の誤解に戸惑いを隠せず…?
それでも冒頭から、ひっそりと沈鬱な空気で始まるこの話は、すべてがこの受けである佳史の人間性からことは起こっている。運命の人と位置づけ、その恋人と穏やかに暮らしてきたつもりの佳史だったが、ある日突然と一方的な別れを告げられた1年前の出来事を回想する。「なぜ」が渦巻く別れの中で、相手を憎むよりも自分を攻め、そして自分とは別の人生を歩むことを決めた相手の幸せを願う日々に時間を費やしてきた佳史。そんな中、突然と目の前に現れたのはその元恋人の弟・修司。そしてその口から発せられたのは、元恋人の死と非難の言葉。
静と動。佳史と修司の言動がわかれる。自我を押し込むことで痛みが過ぎるのをただ待つだけの佳史と、痛みも毒も曝け出して七転八倒する修司。共通する痛みを抱えながらも、全く違うアプローチでそれでも互いの傷を癒そうとする姿は読んでいていたたまれない気持ちにさせる。
すれ違ったままに身体だけの関係を続ける2人に、明日が存在するのか。そんな暗い気持ちにされつつも、そんな行為の中にも垣間見える本音が、読み手側の微かな期待を煽ってくる。修司の突拍子もない行動に、多少の辟易を感じつつも、安易な想像ながらも、表面だけのことではないのだろうと想像させてくれる文脈の運びはさすが。それに添って、佳史が傷つきながらも、次第に兄よりも修司に対して心が支配されていく様に、それが本意なのかそれとも慢性的な力に諦観しているのかと、受けの気持ちとリンクしつつこちらの想像をかなり掻き立ててくれる。
修司の不可解にも思えるほど激しい陵辱や言動は、すべてが叶わぬ恋心が発端になっているのは、良くも悪くもラストの種明かしまでに至らなくとも理解できる。兄の恋人に募る片恋も、その張本人の死によって堰きとめられていた想いが決壊したとしても、いた仕方がないのだろう。
「たら・れば」の世界での思惑を胸に秘めていたが、結果、本人を目の前にしてそれは虚しく自我の欲に屈してしまい、それを若さゆえという括りにしてしまうには、少し陳腐になるかもしれない。傷つけたくないという想いとはまったく裏腹な行動。死してもなお強い繋がりを持ち続けている兄と佳史への嫉妬。自分の入る隙間のなさに感じる絶望。それでも諦めきれぬ佳史への想い。そんな複雑な感情が絡まっての行動なのだが、それもどうなんだといわざるを得ない気持ちもなくはない。が、結局、佳史がそれを受け入れてしまっていた時点で、BLファンタジーという前提を持ってすればこの話のラストはおのずと見えてくる。
繋がりを主要人物だけで終わらせないところが、この話に幅を持たせている。佳史の勤める高校の教え子とのトラブルを同時に進行させてその学生の行動と修司との行動を比較させ、修司の悪歴の理由付けに加勢をしたり、社会的立場でのカミングアウトをした理由、タイトルに使われている宿で2人を迎えた老夫婦の言葉に、修司に涙を流させたりと、徐々に歪んだ2人の片恋の軌道修正を畳掛けさせている。最後の最後に、元恋人と修司の家族との衝突という爆弾を投下させたのは、見事。これにより、新たに踏み出した修司と佳史の絆がより強くなったことが見て取れるし、修司という男の成長が手に取るようにわかり、より一層の読了後の満足感が得られた。
無論、水原本ですので重いです(笑。 が、昼メロ程度に感じられる痛みなので、今までのが苦手だった人には本当にオススメですよ。多少の理不尽さや不可解な成り行きもありますが、それがあったとしてもさすがな力量でラストまで持っていってくれ、そんな疑問もいつのまにやら忘れてのラストを迎えます。
陵辱されたのに、亡き恋人の弟と一緒になれるその心臓に毛が生えたような根性、これをBLファンタジーと呼ばずになんと呼ぶのか!(笑。
と言いつつも、しっとりと痛くて切ないお話です。悩み事は1人で我慢したってダメよってことですよ(笑。

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